
借地権は、建物を建てる目的で土地を借りる権利であり、民法上は土地賃借権や地上権として扱われますが、口約束でも契約の成立は可能です。
一般的に契約は書面がない場合でも当事者同士の意思が明確であれば、口頭の約束(口約束)でも成立するため、借地権もこの原則に従います。ただし、借地権の法的安定性を確保するためには、書面による契約が望ましく、書面の契約で証拠を残すことが大切です。
口約束の借地権に伴うリスクとその対策

口約束による借地権には、書面契約がないことによるリスクがありますが、適切な対策を講じることで権利を守れる可能性があります。
以下に主なリスクと対策をまとめます。
口約束のリスク
・第三者への対抗力が弱い:地主が土地を第三者に売却した場合、借地権を主張しにくくなります。
・証明が困難:契約の存在や内容を証明するのが難しく、トラブルの原因になりやすいです。
・法的紛争の可能性:証拠不足により、地主や第三者との間で権利を巡る争いが起こりやすくなります。
証拠を残すことの重要性
口約束でも、適切な証拠があれば借地権を守ることができます。例えば、建物の登記や契約書の作成は、第三者に対しても借地権を証明する有効な手段となります。
おすすめの記録・証明方法
・契約書の作成:口頭合意に加えて書面契約を交わすことで、借地権の有効性や内容を証明しやすくなります。
・覚書やメールの記録:契約内容や経緯を記した文書、メールのやり取りも証拠として役立ちます。
・地代支払いの記録:地代の支払記録や領収書は、借地権の存在を示す有力な証拠になります。
・建物の登記:借地上の建物を登記することで、借地権の存在を示し、第三者への対抗力を得られます。
・写真や証言:借地や建物の写真、関係者の証言も補助的な証拠として活用できます。
トラブル時の証拠収集
訴訟を想定する場合、文書提出命令を活用して証拠を集めることも可能です。早い段階で証拠収集を始めることが有利になります。 このように、口約束の借地権でも、書面契約の作成や建物登記、各種記録を残すことで、法的な対抗力を確保し、権利を守ることができます。
借地権を相続する際の手続きと必要書類

- 借地権の相続: 借地権は財産として相続対象となり、相続人が借地契約を継承できます。この際、借地上の建物が登記されている場合は、借地権が第三者に対しても主張できるため、相続に際して建物の登記確認が重要です
公益社団法人 全日本不動産協会
。 - 手続きの流れ:
- 相続の確認と相続人の特定: 相続人間で遺産分割協議を行い、借地権を継承する人を決めます。協議が完了したら、遺産分割協議書を作成します。
- 法定相続情報一覧図の取得: これにより相続人情報を法務局で公的に確認できるため、手続きを簡素化できます。
- 名義変更の申請: 相続人は、地主(貸主)への相続通知を行い、名義書換料が必要な場合もあります。地主に対して相続で借地権を継続する旨を説明し、同意を得ます。
公益社団法人 全日本不動産協会
- 必要書類:
- 遺産分割協議書、相続人全員の印鑑証明書、故人の除籍謄本、相続人の戸籍謄本
- 借地権の証明書類(契約書や登記情報)
公益社団法人 全日本不動産協会
1. 親族間での借地権譲渡の注意点
- 地主の承諾が必要: 親族間で借地権を譲渡する場合も、地主の承諾が一般的に必要とされます。譲渡承諾の際には「承諾料(名義書換料)」が求められる場合が多く、その基準は借地権価格の約10%とされるケースが多いですが、地域や条件により異なります。
- 敷金や保証金の引継ぎ: 借地権とともに敷金関係も引き継ぐ必要がある場合がありますが、敷金が新しい借地人に自動的には承継されないため、旧借地人が敷金返還請求権を新借地人に譲渡する特約が必要です。
- 税務上の取り扱い: 親族間での借地権譲渡がある場合、贈与税が課される場合があるため、取引の際は税理士に相談することが望ましいといえるでしょう。
借地権の相続・譲渡は、地主との調整や法律手続きが必要であり、相続後も円滑に権利が継続できるよう、専門家への相談が推奨されます。
地主から借地権者への立ち退き要求へのケース別対応方法

1.借地契約の満了による立ち退き
- 法定更新: 借地契約が満了しても、借地上に建物があり、使用が継続されている場合は「法定更新」が適用され、従前の条件で契約が更新されます(借地借家法第5条)。地主から「出ていくように」と求められても、法定更新が適用されている限り、立ち退く義務はありません。
- 対応: 借地権者は更新を主張し、従前の条件での継続を希望することができます。また、契約の更新に際して条件の変更(地代の改定など)についても話し合うことが可能です。
2. 建物の老朽化や耐震性の問題を理由とした立ち退き要求
- 正当事由の確認: 借地借家法では、地主が立ち退きを求めるには正当事由が必要とされます。建物が老朽化している場合や耐震性の問題がある場合は、立ち退きの正当事由として認められる可能性がありますが、これだけで強制的に退去させるのは困難です。専門家と相談の上、現状を確認することが推奨されます。
- 交渉のポイント: 立ち退きを求められた場合、借地権者は修繕による対応を提案したり、立ち退き料の支払いを交渉の条件とすることが考えられます。
3. 再開発や建て替えのための立ち退き要求
- 裁判所の判断: 再開発のための立ち退きは、地主が立ち退き料を支払うことや、建替えの緊急性・合理性が認められる場合に限り、裁判所が認めることがあります。
- 対応: 借地権者は、立ち退き料や移転先の提供など、合理的な条件が提示されることを求めることができます。これに応じて双方が合意に至らない場合には、裁判所を通じた立ち退き料の適正額の決定も可能です。
2. 立ち退き交渉のポイントと法律相談の活用

- 交渉のポイント:
- 立ち退き料の交渉: 立ち退き要求に対しては、立ち退き料の支払いを求めることが重要です。立ち退き料の額は地域や建物の価値によって異なるため、周囲の事例や専門家の意見をもとに適正額を提示することが交渉の成功につながります。
- 証拠の確保: 地主側の正当事由や立ち退き理由に不審がある場合、契約書や支払い記録、修繕履歴などを保管し、必要に応じて法的対応ができるよう準備をしておきます。
- 修繕の提案: 老朽化が理由の場合、修繕対応による居住継続の可能性を提示することで、立ち退きの回避ができる場合もあります。
- 法律相談の活用:
- 弁護士相談: 立ち退きトラブルでは、弁護士による法律相談が有効です。弁護士が地主との交渉を代行することで、適正な立ち退き料の取得や正当事由の確認を支援してくれます。
- 住まいの相談窓口: 各地の弁護士会や自治体の住まい相談窓口で、初回の法律相談が無料で提供されている場合もあります。公的機関の相談窓口を活用して、基本的な対応方針を確認するのも有効です。
地主からの立ち退き要求には、契約更新や正当事由の確認を通じた防御策と、適切な条件での交渉が必要です。
不動産の専門家によるサポートとメリット
- 不動産鑑定士:不動産鑑定士は土地や建物の評価を行い、売買や相続の際の適正価格を算出します。また、不動産証券化や資産管理などの複雑な案件にも対応し、適切な市場評価を提供します。
一般財団法人日本不動産研究所 - 宅地建物取引士:売買契約や賃貸契約の手続きに関するアドバイスや契約書作成、重要事項説明などを行い、不動産取引を円滑に進めるための実務をサポートします。都道府県宅建協会で無料相談も可能です。
不動産ジャパン - 土地家屋調査士:不動産登記や土地の境界確認、分筆など、法的に正確な土地境界を明示するための登記や測量業務を担い、不動産トラブルの予防に役立ちます。
土地家屋調査士連合会 - 不動産コンサルタント:不動産の取得や運用、売却に関する総合的な助言を行い、資産形成や運用戦略の策定を支援します。不動産ジャパンや各地の相談センターで初期相談が可能です。
公益社団法人 全日本不動産協会 –
1. 相談のタイミングと適切な相談先の選び方
- タイミング:
- 売買や相続など重大な契約前:価格評価や税務影響の確認が必要です。不動産鑑定士や税理士と相談することで、価格設定の妥当性や税務負担を事前に把握できます。
- 契約内容や条件に不安があるとき:売買契約や賃貸契約などで不明点があれば、宅地建物取引士に相談するのが適切です。
- 境界や測量でトラブルが生じたとき:隣接地との境界線確認や測量が必要な場合は、土地家屋調査士に相談すると安心です。予算を抑えたい場合は、土地家屋調査士の資格を持たない測量会社に相談する場合もあります。
- 不動産投資や資産運用を計画する段階:投資判断やリスク分析が重要な場合、不動産コンサルタントに相談すると適切な戦略が立てやすくなります。
- 相談先の選び方:
- 各種団体の無料相談窓口:公益社団法人全日本不動産協会や各都道府県の宅建協会が運営する無料相談所は、初期的な疑問解消やトラブル予防に役立ちます。
公益社団法人 全日本不動産協会 - 専門資格を持つ相談先:内容に応じて不動産鑑定士、不動産コンサルタント、調査士など、それぞれの専門分野に特化した資格者に相談することで、より専門的な対応が期待できます。
- インターネットや電話での相談も可能:多くの団体が電話相談を提供しており、アクセスが難しい場合も簡易的なアドバイスが受けられます。
- 各種団体の無料相談窓口:公益社団法人全日本不動産協会や各都道府県の宅建協会が運営する無料相談所は、初期的な疑問解消やトラブル予防に役立ちます。
不動産専門家のサポートは、法的リスクの軽減や経済的な判断の根拠を提供し、トラブル防止に大いに役立ちます。早めの相談を心がけ、必要に応じた適切な専門家を選ぶことが重要です。
まとめ

口約束による借地権の契約は法的に有効とされ、書面がなくても契約は成立します。しかし、第三者への対抗力や法的証明の面でリスクがあるため、次の点を押さえた対策が必要です。
- 証拠を残すことの重要性
借地権の権利を証明するためには、契約書の作成や建物の登記、地代の支払い記録などの証拠を残すことが重要です。特に登記は、第三者に対する対抗力を高めるための有効な手段です。また、契約内容の履行状況を証明できるメールや覚書、証人の証言も有効です。 - 口約束のリスク
口約束のみで契約を交わした場合、第三者に対して権利を主張できない可能性が高まります。また、証拠が少ないために契約内容の争いが生じやすく、法的トラブルへ発展するリスクがあります。 - リスク回避のための対策
書面による契約、建物の登記、支払証拠の確保などを徹底しましょう。また、トラブルが発生した際に備え、弁護士や不動産の専門家に相談することで円滑な解決が期待できます。 - 相続や譲渡時の注意点
借地権は相続財産として承継可能ですが、建物が登記されていることで第三者に対する対抗力が保たれます。親族間の譲渡では、地主の承諾や名義書換料の確認が必要で、贈与税が課される場合もあるため専門家への相談が推奨されます。 - 専門家のサポートを活用
不動産鑑定士、宅地建物取引士、土地家屋調査士などの専門家が、価格評価や登記手続き、契約内容の確認といった面でサポートします。無料相談窓口や地域の法律相談センターも初期段階での相談に役立ちます。