
借地権は相続財産の一部であり、相続人に引き継がれます。借地権付き建物であっても例外ではなく、建物と借地権が相続人に継承されます。
しかし、地主との関係性や様々な手続きが必要となるため、土地所有権の物件とは異なる注意点があります。そこで、この記事では借地物件固有の注意点を詳しく解説しました。
また、記事後半では地主が亡くなった場合に底地を相続したケースでの注意点についても解説しています。
借地権の相続における地主の承諾と承諾料について

借地権を相続する場合、地主の承諾は不要です。
これは法律で定められており、地主が拒否することはできません。
項目 | 詳細 |
---|---|
承諾の要否 | 不要(借地権は相続財産であり、相続人に自動的に承継される) |
承諾料 | 不要(ただし、相続人以外への遺贈や売却の場合は、地主の承諾と承諾料が必要となる場合がある) |
借地権の相続は、通常の相続と同様に扱われるため、安心して手続きを進めてください。
ただし、相続人以外への遺贈や売却の場合は、地主の承諾と承諾料が必要となるケースがあることを覚えておきましょう。
借地権の相続における地主への連絡方法と注意点
地主への連絡は、相続発生後速やかに行いましょう。
連絡方法は、手紙や電話、直接訪問など、地主との関係性に応じて適切な方法を選択します。
連絡方法 | メリット | デメリット |
---|---|---|
手紙 | 記録が残る、丁寧な印象を与える | 時間がかかる、返信がない場合がある |
電話 | すぐに連絡できる、相手の反応がわかる | 記録が残らない、言った言わないの問題が起こる可能性がある |
直接訪問 | 誠意が伝わる、その場で話し合える | 時間や手間がかかる、相手が不在の場合がある |
専門家を通す | トラブルを回避できる、適切なアドバイスが得られる | 費用がかかる |
連絡する際は、相続が発生したこと、相続人の氏名・連絡先、今後の地代の支払いについてなどを明確に伝えましょう。
地主との良好な関係を維持するためにも、丁寧な対応を心がけてください。
相続した借地権付き建物の名義変更登記手続き
借地権付き建物の名義変更登記は、法務局で行います。
必要書類を揃え、申請書を作成し、登録免許税を納付する必要があります。
手続きの流れ | 必要書類 |
---|---|
1. 必要書類の収集 | 遺産分割協議書、戸籍謄本、住民票、固定資産評価証明書など |
2. 登記申請書の作成 | 法務局のウェブサイトからダウンロード可能 |
3. 法務局へ申請 | 窓口、郵送、オンラインのいずれかの方法で申請 |
4. 登録免許税の納付 | 固定資産税評価額の0.4% |
5. 登記完了証の受け取り | 申請から1~2週間程度で交付 |
専門的な知識が必要となるため、司法書士に依頼することを強くおすすめします。
司法書士に依頼すれば、書類の収集や作成、申請手続きなどを代行してもらえます。
借地権の相続税評価方法と計算例
借地権の相続税評価額は、「路線価 × 借地権割合」で計算されます。
路線価は、国税庁が毎年公表する土地の価格で、借地権割合は地域によって異なります。
例えば、路線価が50万円/㎡、借地権割合が60%の地域で、100㎡の土地を借りている場合、借地権の評価額は以下のようになります。
これらの数値を掛け合わせると:
50万円/㎡ × 100㎡ × 60% = 3,000万円
この計算例では、3,000万円が借地権の相続税評価額となります。
相続税の計算は複雑なため、税理士に相談し、正確な評価額を算出してもらうことをおすすめします。
借地権の相続税申告と納付手続き
相続税の申告と納付は、被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内に行う必要があります。
手続き | 詳細 |
---|---|
申告書の作成 | 税務署のウェブサイトからダウンロード可能 |
必要書類の添付 | 遺産分割協議書、戸籍謄本、財産目録など |
税務署への提出 | 窓口、郵送、e-Taxのいずれかの方法で提出 |
相続税の納付 | 現金一括納付が原則だが、延納や物納も可能 |
専門家への相談(推奨) | 税理士に依頼することで、申告書の作成や税額計算、節税対策などをサポートしてもらえる |
相続税の申告は、期限内に正確に行う必要があります。
申告漏れや計算ミスがあると、加算税や延滞税が課される可能性があります。
税理士に依頼すれば、申告書の作成や税額計算、節税対策などをサポートしてもらえるため、安心です。
地主が死亡し、底地を相続した場合の手続きと借地人への対応

底地相続における借地人への連絡と地代請求先の確認
地主が亡くなり、底地(借地権が設定された土地)を相続した場合、まずは借地人に連絡を取ることが大切です。
相続によって新たな地主になったことを伝え、今後の地代請求先を明確にする必要があります。
具体的には、以下のような内容を借地人に伝えます。
- 地主が亡くなったこと:まずは、地主が逝去された事実を丁寧にお伝えします。
- 自分が新たな地主になったこと:相続により、自分が新たな地主(土地の所有者)になったことを伝えます。
- 今後の地代請求先:誰に地代を支払えば良いのかを明確にします。相続人が複数いる場合は、代表者を決めて連絡先を共有するとスムーズです。
これらの情報を伝えることで、借地人は安心して地代を支払うことができ、今後のトラブルを防ぐことにもつながります。
例えば、東京都世田谷区に住むAさん(45歳会社員)は、父親から底地を相続した際、借地人であるBさんに速やかに連絡を取り、上記の内容を伝えました。
その結果、Bさんは安心してAさんに地代を支払うことができ、良好な関係を継続できたそうです。
底地を相続した場合は、借地人への連絡と地代請求先の確認を忘れずに行いましょう。
これにより、借地人は安心して地代を支払うことができ、地主は安定した地代収入を得られます。
借地契約内容の確認と注意点(契約期間、更新料など)
底地を相続したら、借地契約の内容を必ず確認しましょう。
契約期間や更新料、その他特約事項など、今後の地代収入や土地の利用に大きく関わる重要な情報が記載されています。
特に注意すべき点は以下の3つです。
項目 | 説明 | 確認事項 |
---|---|---|
契約期間 | 借地契約の残りの期間を確認 | 残存期間が短い場合は、更新のタイミングや条件を確認 |
更新料 | 更新時に更新料が発生するかどうか、発生する場合は金額を確認 | 更新料の相場は、更地価格の3〜5%程度 |
その他特約事項 | 建物の増改築や用途変更に関する制限、契約解除の条件など、特別な取り決めがないかを確認 | 例:増改築禁止特約がある場合、借地人の建物の建て替えには地主の承諾が必要となり、承諾料が発生する場合がある |
これらの情報を確認することで、今後の地代収入の見込みや、土地の利用に関する計画を立てやすくなります。
例えば、契約期間が残り少ない場合は、更新のタイミングで更新料を受け取れる可能性があります。
また、増改築禁止特約がある場合は、借地人の建物の建て替えに際して承諾料を請求できる場合があります。
借地契約の内容をしっかりと確認し、今後の土地の活用方法や収益について検討しましょう。
不明な点がある場合は、弁護士や不動産鑑定士などの専門家に相談することをオススメします。
底地の相続登記手続き
底地を相続した場合、法務局で相続登記の手続きを行う必要があります。
相続登記とは、土地の所有者の名義を亡くなった方から相続人に変更する手続きです。
相続登記の手続きは、以下の流れで行います。
- 必要書類の収集:
- 被相続人(亡くなった方)の出生から死亡までの戸籍謄本、除票または戸籍の附票
- 相続人全員の戸籍謄本、住民票または戸籍の附票
- 遺産分割協議書(相続人が複数いる場合)または遺言書
- 固定資産評価証明書
- その他、場合によって必要となる書類(例:相続関係説明図)
- 登記申請書の作成: 法務局のウェブサイトからダウンロードするか、法務局の窓口で入手できます。
- 法務局への申請: 必要書類と登記申請書を揃えて、管轄の法務局に提出します。
相続登記は、自分で行うこともできますが、書類の収集や作成が煩雑なため、司法書士に依頼するのが一般的です。
司法書士に依頼した場合の費用は、5万円から8万円程度が相場です。
なお、2024年4月1日から相続登記が義務化されました。
正当な理由なく、不動産(土地・建物)を取得したことを知った日から3年以内に登記しない場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。
相続登記は、土地の所有者を明確にするだけでなく、将来的な売却や担保設定などの際にも必要となる重要な手続きです。
底地を相続した場合は、速やかに手続きを行いましょう。
底地の相続税評価方法と計算例
底地(借地権が設定されている土地)の相続税評価額は、自用地(更地)としての評価額から借地権の価額を控除して計算します。
計算式は以下の通りです。
- 底地の相続税評価額 = 自用地としての評価額 × (1 借地権割合)
- 自用地としての評価額: 路線価方式または倍率方式で計算します。
- 借地権割合: 土地の利用状況や地域によって異なり、国税庁が定める路線価図・評価倍率表で確認できます。
例えば、東京都世田谷区の住宅地で、路線価が50万円/㎡、借地権割合が60%の地域にある100㎡の土地(底地)を相続した場合を考えてみましょう。
- 自用地としての評価額: 50万円/㎡ × 100㎡ = 5,000万円
- 借地権割合: 60%
- 底地の相続税評価額: 5,000万円 × (1 0.6) = 2,000万円
- 底地の相続税評価額: 5,000万円 × (1 – 0.6) = 2,000万円
この場合、底地の相続税評価額は2,000万円となります。
自用地として評価した場合の5,000万円よりも、3,000万円低い評価額となります。
底地の相続税評価額は、借地権割合によって大きく変わります。
正確な評価額を算出するためには、国税庁のウェブサイトで最新の情報を確認するか、税理士に相談することをオススメします。
相続税の申告と納付期限、手続きについて
相続税の申告と納付は、被相続人(亡くなった方)が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に行う必要があります。
相続税の申告と納付の手続きは、以下の流れで行います。
- 相続財産の評価: 預貯金、不動産、有価証券など、すべての相続財産の評価額を計算します。
- 相続税の計算: 相続財産の総額から基礎控除額(3,000万円 600万円 × 法定相続人の数)を差し引いた金額に、相続税率を掛けて計算します。
- 相続税の計算: 相続財産の総額から基礎控除額(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)を差し引いた金額に、相続税率を掛けて計算します。
- 申告書の作成: 税務署のウェブサイトからダウンロードするか、税務署の窓口で入手できます。
- 税務署への申告と納付: 申告書と必要書類を揃えて、被相続人の住所地を管轄する税務署に提出し、相続税を納付します。
相続税の申告と納付は、自分で行うこともできますが、計算や書類の作成が複雑なため、税理士に依頼するのが一般的です。
税理士に依頼した場合の費用は、相続財産の額や内容によって異なりますが、数十万円から数百万円程度が相場です。
期限内に申告と納付をしないと、加算税や延滞税などのペナルティが課される場合があります。
相続税の申告と納付は、期限内に正確に行いましょう。
借地権・底地の相続トラブルと円満解決のための相談先

借地権や底地の相続は、地主と借地人双方にとって、トラブルに発展しやすい問題です。
以下に、よくあるトラブル事例、話し合いのポイント、専門家の選び方と相談方法、そして不動産鑑定士による評価の活用について解説します。
借地権・底地相続でよくあるトラブル事例
借地権や底地の相続では、当事者間での認識の違いや、感情的な対立から、さまざまなトラブルが発生する可能性があります。
例えば、以下のようなトラブルが考えられます。
トラブルの種類 | 具体例 |
---|---|
地代に関するトラブル | 相続後、地代の増額をめぐって地主と借地人が対立する。 |
契約更新に関するトラブル | 契約更新時に、更新料の支払いや契約内容の変更をめぐって意見が合わない。 |
名義変更に関するトラブル | 借地権の相続人が複数いる場合、誰が名義人になるかで揉める。 |
売却に関するトラブル | 借地権や底地の売却をめぐり、地主と借地人間の間で価格交渉がまとまらない、どちらが買い取るかで意見が対立する。 |
地主と借地人間のトラブルを避けるための話し合いのポイント
当事者間で円満に解決するためには、お互いの立場を理解し、冷静に話し合うことが重要です。
以下のポイントを踏まえて、建設的な話し合いを心掛けてください。
ポイント | 説明 |
---|---|
感情的にならない | 相手の人格を攻撃したり、過去の出来事を蒸し返したりせず、冷静に話し合いましょう。 |
相手の立場を理解する | 地主、借地人それぞれの権利や立場を理解し、相手の主張に耳を傾けましょう。 |
情報を共有する | 借地契約書や過去の経緯など、必要な情報を開示し、お互いの認識のズレを解消しましょう。 |
専門家の意見を聞く | 必要に応じて、弁護士や不動産鑑定士などの専門家を交えて話し合いましょう。第三者の客観的な意見を聞くことで、解決の糸口が見つかることがあります。 |
妥協点を探る | お互いの希望をすべて満たすことは難しい場合もあります。双方が納得できる妥協点を探りましょう。 |
合意内容を書面にする | 口約束ではなく、合意した内容は必ず書面(合意書など)に残しましょう。 |
これらのポイントを意識して、トラブルを未然に防ぎ、早期解決を目指しましょう。
弁護士、司法書士、税理士など、状況に応じた専門家の選び方と相談方法
借地権・底地の相続問題は、法律、税金、不動産評価など、さまざまな専門知識が必要となるため、状況に応じて適切な専門家に相談することが重要です。
以下に、各専門家の役割と、相談する際のポイントをまとめました。
専門家 | 役割 | 相談する際のポイント |
---|---|---|
弁護士 | 法律の専門家。地主や借地人との交渉、訴訟、契約書の作成などを依頼できる。 | – 借地権問題に詳しい弁護士を選ぶ – 複数の弁護士に相談し、費用や対応を比較する |
司法書士 | 登記の専門家。不動産の名義変更(相続登記)手続きを依頼できる。 | – 相続登記の実績が豊富な司法書士を選ぶ |
税理士 | 税金の専門家。相続税の申告や、節税対策のアドバイスを受けられる。 | – 相続税に強い税理士を選ぶ – 生前対策として、早めに相談する |
各専門家への相談は、電話やメールだけでなく、オンラインでの相談も可能です。
不動産鑑定士による借地権・底地評価の活用
不動産鑑定士は、不動産の価値を評価する専門家です。
借地権や底地の相続において、以下のような場面で不動産鑑定士による評価が役立ちます。
場面 | 活用方法 |
---|---|
適正な地代の算定 | 現在の地代が適正かどうかを判断するために、不動産鑑定士に土地の評価を依頼する。 |
相続税評価額の算定 | 借地権や底地の相続税評価額を算定するために、不動産鑑定士に評価を依頼する。 |
売却価格の算定 | 借地権や底地を売却する際に、適正な売却価格を把握するために、不動産鑑定士に評価を依頼する。 |
トラブル解決 | 地主と借地人間のトラブル解決において、客観的な評価額を示すことで、話し合いを円滑に進めることができる。例えば、株式会社谷澤総合鑑定所の不動産鑑定士は全国対応しており、借地権・底地問題に詳しい専門家です。 |
これらの情報を参考に、必要に応じて専門家を活用し、円満な相続手続きを進めていきましょう。
まとめ

借地権を相続する場合、地主の承諾は不要で、承諾料も発生しません。ただし、相続人以外への遺贈や売却をする場合は、地主の承諾と承諾料が必要になることがあります。相続後は速やかに地主に連絡し、丁寧な対応を心がけることで良好な関係を維持できます。
借地権付き建物の名義変更登記は法務局で行い、必要書類の収集や申請書の作成が求められます。専門知識が必要なため、司法書士に依頼するのが安心です。また、借地権の相続税評価は「路線価 × 借地権割合」で計算され、相続税の申告と納付は10ヶ月以内に行う必要があります。税理士に相談することで、正確な評価や節税対策が可能です。
一方、地主が亡くなり底地を相続した場合、借地人への連絡を速やかに行い、今後の地代請求先を明確にすることが大切です。底地の相続登記も法務局で行い、2024年からは義務化されています。借地契約の内容を確認し、契約期間や更新料、特約事項を理解することで、今後の地代収入や土地利用の計画が立てやすくなります。
相続に関連するトラブルを避けるためには、冷静な話し合いや専門家の意見を取り入れることが重要です。弁護士、司法書士、税理士、不動産鑑定士など、状況に応じて適切な専門家に相談することで、トラブルの予防や解決がスムーズに進みます。この記事の内容を理解することで、借地権や底地の相続手続きが円滑に行え、トラブルを未然に防げるため安心です。